警察、交番が緊急時にお金を貸し出す制度【公衆接遇弁償費】
外出先で「あったはずに財布がない!」と言う状況に陥った場合、どうしますか? お金を盗まれた?落とした?どこかに置き忘れた?と、パニックになってしまうかもしれませんね。
迎えに来てくれるあてもなく、財布も見つからない、もしくはスマホもない、スマホがあっても充電がない等という場合、お金がないと家に帰ることもできないという緊急事態に陥ってしまいます。
こんな時に頼りになるのが、「警察(交番)」です。 実は警察・交番では、このような緊急事態にお金を貸し出す制度を用意しているのです。ここでは、緊急時の貸出制度「公衆接遇弁償費」について説明していきます。
警察からお金を借りられる「公衆接遇弁償費」とは
警察が「必要」と判断した場合、一般の方へ貸し出しするお金のことを「公衆接遇弁償費」と言います。
このような費用を用意している交番等では、「お金がなくて帰れないんです」と事情を説明すると、帰りの交通費程度であればお金を貸してくれるのです。
ただしこの制度は全国の警察共通の制度ではありません。
基本的には警視庁での制度となるのです。
警視庁は東京都の管轄となるため、東京都だけの制度と言えるでしょう。
その他の自治体でも、名称は違っても同じ様な制度を導入している場合もありますが、このような貸し出し制度を導入していない自治体では、交番へ行って「お金を貸してほしい」と言っても貸してはくれないでしょう。(状況によっては、警察官がポケットマネーを好意で貸してくれることもあります)
まずは、公衆接遇弁償費の制度を導入している自治体でのお金の貸し出しの方法について見ていきましょう。
警察の公衆接遇弁償費でいくらまでお金を借りられる?
警察の公衆接遇弁償費で借りられる金額は、1人に対し、原則1,000円までとなります。
以下のように、どうしても1,000円を超える費用が必要だという場合は、状況によっては追加でお金を借りられる場合もあります。
・終電がなく、タクシーで帰宅する場合で、自宅に現金がないと分かっている場合
・ケガ人、急病人保護等のための衣料品、タオル、ガーゼ等購入のため
ただし1,000円を超える貸し出しを行う場合は、交番でも事務担当者(不在の場合は、補助者、本署当番責任者、当直責任者など)の承認を得る必要があるため、正当な理由がない限りは1,000円までしかお金を借りることができません。
緊急を要する場合は1,000円超の貸出を行った後、承認申請を行うという形をとる場合がありますが、よほどではない限りそのような対応はとりません。
また公衆接遇弁償費は、毎年年度初めの4月に、総括主管者が決定した額が交付場所へ交付されているため、万が一交番等で交付金を全額貸し出していて返済待ちの状態だと、貸したくても貸せない場合もあります。
・公衆接遇弁償費の事務取扱い総括主管者・・・地域部長
・取扱主管者・・・警察署長、企画課長、運転免許試験場長、鉄道警察隊長
・事務担当者・・・地域課長(警察署の場合)、地域課長に準ずる者(企画課、運転免許試験場、鉄道警察隊)
・補助者・・・取扱主管者が指定
公衆接遇弁償費の貸出場所は交番や警察署だけじゃない
公衆接遇弁償費は、交番や警察署はもちろんのこと、以下のような場所でも貸し出しをしています。
・地区交番
・警察署
・企画課
・運転免許試験場
・鉄道警察隊
・駐在所
・地域安全センター
・鉄道警察隊分駐所や連絡所
・警察署の警ら用無線自動車
公衆接遇弁償費 貸出事由
次のような、緊急でかつ正当な理由だと判断された場合、公衆接遇弁償費でお金を借りることができます。
①外出先で所持金を盗まれた、なくしてしまった人への交通費
所持金が0円で自宅に帰るのも困難になった場合、自宅までの交通費を貸し出してくれます。
ただし、お金を貸す以外方法がない場合に限りますので、まずは以下のようなことを検討してみましょう。
・電話で誰かに迎えに来てもらうことはできないのか・・・可能であれば迎えに来ていもらいます。携帯電話や電話代がない場合は交番の電話を借りることもできます。
・自宅には現金があるのか・・・あるなら、タクシーに乗って、到着時に自宅からお金を持ってきて支払うことができます。
・キャッシュカードや通帳、印鑑などは持っていないのか・・・持っていれば銀行から引き出すことができます。
・おサイフケータイがあるか・・・あれば、タクシー代などの支払いが可能です。
これらのことも不可能で、どうしても他に方法がないという時、最終手段として1,000円以内の交通費を借りることができます。
上限1,000円なので、自宅が遠方の場合足りないかもしれませんが、近くの駅まではたどり着けるでしょう。
②行方不明者を保護した際、応急的な措置をとるために必要な費用
迷子など行方不明者を見つけた際の救護にかかる費用(ガーゼ、衣料品購入、交通費など)や、連絡する為の電話代など、必要だと判断されると貸し出してもらうことができます。
③病人の保護、交通事故等の負傷者救護での応急措置に必要な費用
突然の交通事故等による負傷者の救護や、急病の方の救護で、緊急性が高い場合、必要な費用を借りることができます。
④公衆接遇の適正を期するために必要となる経費
①~③以外で、緊急性が高く、制度の対象だと認められた場合、お金を貸し出してもらうことができます。
公衆接遇弁償費 お金の借り方
①事情説明
交番等、公衆接遇弁償費の貸出可能な場所へ行き、事情を説明します。
正当な理由の場合、借受願書を用意してくれます。
貸出事由②・③・④の場合は、必要だと判断されると、借受願書は用意せず、すぐにお金を貸し出ししてくれます。
②借受願書へ必要事項を記入
借受願書に、日付・住所・電話番号・氏名・生年月日・年齢・職業・借受金額・借受理由を記入し、押印(指印)します。
これはお金を借りる際に提出する書類となるため、正確に記入する必要があります。
もし虚偽の申告をして交付を受けた場合、刑法246条(人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する)に当たり、罰せられる場合があります。
指印もとられるので、他人の名前を書いたり、住所や電話番号を偽ってもすぐにバレてしまいます。
貸代事由が②・③・④で、緊急を要する場合は先にお金を借り、救護等が終了次第必要事項(個人情報等)を警察へ伝えることになります。
③返済書受け取り
貸出制度なので、借りたお金は必ず返さなければなりません。
お金を借りた場合は、「返済書」を受け取り、後日必ず返済書と一緒に現金を返しに行きましょう。
公衆接遇弁償費 お金の返し方
借受願書もありますし、借受願書を作成しない場合でも警察署で備え付けの収支明細簿に、住所・職業・電話番号・氏名・年齢・支出額等の記入をして、貸し出し金について管理しているため、借りた場合は早い段階で必ず返さなければなりません。
返済場所は、原則実際にお金を借りた警察署や交番等となりますので、借りた時に受け取った返済書と一緒に、現金を持っていきましょう。
ただし、自宅が遠方で同じ場所まで行くことができないという場合は、自宅に近い交番等で返済することもできます。
その際はお金を借りた警察署や交番へ連絡し、貸出金額と本人確認を行います。
もし返済書を持っていくのを忘れたという場合は、新たな返済書を受け取り、「日付、住所、職業、電話番号、氏名、生年月日、年齢、借受金額」を記入します。 領収書が必要な場合はお願いすると作成してくれます。
<返済条件>
返済場所 | 借りた警察署、交番等(原則) |
返済額 | 借受金額(利息はかかりません) |
返済期限 | なし |
督促 | なし |
必要書類 | 返済書、本人確認書類 |
領収書の交付 | 希望者のみ |
未成年の方が公衆接遇弁償費でお金を借りる場合
警察などの公衆接遇弁償費でお金を借りるのは、成人に限ったことではありませんね。
未成年でも、交通費のために交番からお金を借りることもあるかもしれません。
しかし未成年は、民法5条により、本人の意思だけで法律行為を行うことができないのです。
金銭の貸借に関する契約(借受願書)も法律行為の一種であるため、未成年者が記入した願書は後から取り消すことができてしまうのです。
そのため、お金を貸し出した後、必ず警察から親権者へ連絡がいくことになります。
<民法第5条第2項(未成年者の法律行為)の条文>
第5条(未成年者の法律行為)
1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第1項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
引用:民法条文解説.com
警察の貸出制度「公衆接遇弁償費」の必要性
実は帰宅困難者のためにせっかく貸し出したお金なのに、返済率は100%ではないというのが現状です。
警察署の善意でもある制度なのに、お金に困っている状況を装い、公衆接遇弁償費の貸し出しを受けて返済をしないという詐欺行為を行う方もいるのです。
このように善意を踏みにじられるケースも多く、回収率が低いため、この制度を導入する自治体も少なくなってしまうのです。
また、以下のような理由から貸出制度廃止の動きもあるようです。
・詐欺に遭う危険性がある
・スマホや携帯電話の普及により、お金がなくてもすぐに誰かに連絡できる時代になった
・おサイフケータイや電子マネー、ICカード等を利用すると、現金がなくても対応できる場合が増えた
公衆接遇弁償費は、携帯電話のない時代に制定された制度のため、以前は交番で現金を貸し出すことで救われる方も多かったようですが、今現在はスマホや電子マネー等の普及により、警察に頼る前にできる方法がたくさんあります。
お金を返済してもらえない・詐欺行為として利用される、ということもあるため、この制度の必要性について考えさせられますね。 日本全国に公衆接遇弁償費の制度が普及しないのもうなずけます。
公衆接遇弁償費で借りたお金を返済しないとどうなるの?
返済期日もなく、返済が遅れても利息が膨らむわけでもないのであれば、「数百円しか借りていないし、返しに行くのにも交通費がかかるから」と、返済が億劫になってしまう方も多いかもしれません。
督促の電話が来るわけでもないので、「返さなくても大丈夫なのでは?」と思ってしまう方もいるかもしれませんね。
しかし、住所氏名などの個人情報を記入し、押印もしくは指印してきているため、借りっぱなしで済むわけはないのです。
最悪の場合、「寸借詐欺」として逮捕されることもあるのです。
実際に、警察・交番で何度もお金を借りる行為を繰り返し、逮捕された事例もあるので、警察にお金を借りたら必ず返済しましょう。
警察や交番でお金を借りるのは最終手段
警察や交番で、一般の方に貸し出しするためのお金(公衆接遇弁償費)を用意しているのは事実ではありますが、誰でも気軽にお金を借りられるような制度ではないというのはおわかりいただけたと思います。
交番でお金を借りるのは、本当に行き詰った時の最終手段だと考えておいた方がいいでしょう。 突然「財布が見当たらない」という状況に陥るとパニックになってしまうかもしれませんが、まずは落ち着いて、やるべきことは何か冷静に判断することが大切です。
財布を盗まれた、落とした場合
財布を盗まれた、お金を落としてしまった、と言う場合は交番に届け出をすると同時に、財布の中にどのようなカードが入っていたか思い返しましょう。
クレジットカードやキャッシュカードが入っているなら、すぐに利用停止の連絡をカード会社や銀行へ行わなければなりません。
また何をしていいかわからない場合は、交番に届け出をした際に、「所持金0円になってしまった」と伝えると、公衆接遇弁償費の貸出の前に可能な限りの対応策を提案してくれるかもしれません。
携帯電話がなくても交番の電話を借りることもできますし、誰かに迎えに来てもらうまでの間も一時的に交番で保護してもらうこともできます。 まずは警察官に「お金を貸して」と言う前に、「財布を落としてしまった」と報告し、相談してみるといいでしょう。